2019年11月に投稿された慢性疲労症候群(CFS)/筋痛性脳脊髄炎(ME)の権威アンソニー・コマロフ教授のブログを訳してみました。雑な訳ですが、ハーバード大学のアンソニー・コマロフ教授がどのように今考えているのかを知るヒントになればと思います。
慢性疲労症候群:何が間違っているかを徐々に把握する(原題 Chronic fatigue syndrome: Gradually figuring out what’s wrong )

1983年、30代の医療従事者が私のオフィスに入ってきて、こう言いました。
「私はこれまでずっと健康でした。ところが 1年前、喉の痛み、筋肉痛、リンパ腺の腫れ、発熱などを引き起こす、ある種のウイルスに感染しました。 私の疲労はとてもひどかったので、一週間近く寝ていました。 症状の多くは徐々に改善しましたが、ひどい疲労と思考の困難さは改善されていません。 疲労とモノを考えられないという状態はとても悪い状態で、自宅でも職場でも自分の責任を果たすことができません。 この病気は脳に影響を与え、エネルギーを奪い、免疫系に影響を与えています。
有名な医師であるウィリアム・オスラーのアドバイスがあり、医学生なら誰でも聞いたことがあるでしょう。
「患者の声に耳を傾けなさい。 患者はあなたに診断を伝えています。」」
しかし、今回の場合当てはまるかどうか私にはわかりませんでした。
その時(1980年代)わかっていたこと

まず第一に、医学の教科書はこのような病気について記述をしていませんでした。さらに、さまざまな疾患をスクリーニングするための通常の臨床検査はすべて正常と診断されました。この時点で、医師には2つの選択肢があります。患者を信じて検索し続けることで、何が悪いのかを見つけるか、患者に「何も悪いことはない」と言うことです。傷口に塩をなすりつけるように。
幸いなことに、世界中の多くの医師と生物医学科学者がこの病気に興味を持つようになり、過去35年間に9,000以上の科学的な研究が発表されています。医学研究所は、現在、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME / CFS)と呼ばれているこの状態を、「患者の生活に重大な影響を及ぼすことがある深刻な慢性の複雑な全身疾患である」と結論付けています。アメリカでは最大250万人が罹患し、年間約170?240億ドルの直接および間接的な損失が発生しています。
私たちが現在わかっていること

JAMA誌の最近の記事で説明したように、健康的に稼働している臓器と比較すると、ME / CFSの人々においては多くの臓器系に関わる根本的な生物学的異常が研究で実証されています。 以下は、現在の科学が示唆していることの概要です。
脳について。
脳ホルモンの検査、思考の正式な検査、磁気共鳴画像法(MRI)、および脳の陽電子放射断層撮影(PET)スキャンは、ME / CFS患者のかなりの割合で異常です。 体温、血圧、心拍数、呼吸数、腸や膀胱の動きなどの重要な機能を制御する自律神経系の検査も異常です。 脳のこれらの異常のすべてがME / CFSを持つすべての人に存在するわけではなく、これらの異常は患者によるようです。
エネルギー代謝について
私たちが生きているのは、体の細胞が生きているからです。 そして、細胞はエネルギーを生み出し、そのエネルギーを使って活動し続け、生き続けることから細胞は生きています。 私たちの細胞は、私たちが呼吸する空気中の酸素と、食べる糖分、脂肪、タンパク質からエネルギーを作ります。
ME / CFSでは、エネルギーの生成と使用の両方で細胞に問題があることが研究により示されています。 つまり、ME / CFSの患者が十分なエネルギーがないと感じるのは、細胞が十分に生産されていない、もしくは効率的に使用されていないからです。 血液から酸素を抽出し、それを使用してエネルギーを生成する細胞の能力に、肉体的および精神的運動後に特に欠陥が見られるようです。
免疫システムについて
免疫系は複雑で、さまざまな種類の細胞が含まれており、さまざまな種類の化学的シグナルを発して、互いに伝達しあっています。 何百もの研究により、ME / CFSの患者では、免疫システムが慢性的に活性化され、あたかも何かと戦っているように見え、免疫システムの一部が戦いで消耗しているという証拠が見つかりました。
「ハンカリングダウン」システムのアクティブ化
人間を含む動物には、重大な脅威が発生した場合に自身を保護するシステムがあります。 たとえば、食料不足に直面しているワームやクマは、「ハンクダウン」します。つまり、生き続けるために必要なプロセスにエネルギーを集中させるシステムを起動します。 非本質的でエネルギーを必要とする活動は最小限に抑えられます。
重傷を負ったり病気にかかったりした人間は、さまざまなハンカリングダウンシステムを作動させます。 ME / CFSでは、ハンクダウンシステムがオンになっていて、不適切にスタックしたままである可能性があることを示唆する証拠がいくつかあります。 研究チームは、ハンカリングダウンシステムをオフにする方法を見つけようとしています。
継続的な研究は、より良い理解と治療につながるはずです

ME / CFSについては、35年前よりも多くのことが知られています。 NIH(アメリカ国立衛生研究所:National Institutes of Health)、CDC(アメリカ疾病管理予防センター: Centers for Disease Control and Prevention)、およびME / CFSに専念する民間財団からの継続的かつ拡大されたサポートにより、今後10年間で多くの進歩が期待されます。 医師が「検査は正常です、何も問題はない」と言うのではなく、「検査により問題点が示され、それを修正する治療法があります」と言うでしょう。
そして医師たちは、医学部で学んだ私たち全員が賢明なるアドバイスに由来する知恵を認識するでしょう。
「患者の声に耳を傾けなさい。 患者はあなたに診断を伝えています。」
翻訳 萩原崇 (@t_panda123)
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